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浜松簡易裁判所 昭和43年(ろ)16号 判決 1968年7月31日

被告人 清水鴻

主文

被告人を罰金二〇、〇〇〇円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金五〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、東海自動車学校の技能指導員として、仮免許を受けた同校教習生と同乗して路上教習を担当している者であるが、昭和四二年一一月一四日午後一時四〇分ごろ、仮免許を受けた同校教習生植田法子と教習用の普通乗用自動車の指導員席に同乗して同校を出発し、同日午後二時二五分ごろ歩車道の区別のない幅員八・五五メートルあるアスフアルトで舗装された浜松市原島町七三四番地先道路の左側部分(幅員約四・二七メートル)を時速約四〇キロメートルで北進してさしかかつたところ、約五〇メートル前方道路左端から西方一・三〇メートルの地点で、顔を自車に向け身体を東方(道路)に向けている山本哲次(当時五年)を認めたが、このような場合に技術指導員としては、仮免許を受けた者は路上における運転の体験がないのであるから、智能の低い幼児は何時如何なる行動に出るかも知れないので危険な行動に出る徴候があれば、警音器を鳴らして車両の接近を知らせると同時に、自車の進路上に飛び出すことも予見される場合は、何時でも停車できるように減速して進行するよう指示するか、又は、自ら補助ブレーキペダルを踏んで何時でも停車できるよう減速して進行できるよう特に幼児の動静を注視して、事故の発生を未然に防止すべき注意義務があるのにかかわらず、これを怠り、警音器もならさせず、同一の速度で進行した過失により、同人との距離が約一二メートル近接した際、同人が道路左端から東方〇・七〇メートルの道路内から自車の進路上に飛び出すのを認めて危険を感じ、補助ブレーキペダルを踏み急ブレーキをかけたが及ばず、自車の左前照燈付近を同人に衝突させて、よつて同人に治療約四カ月間を要する頭部外傷第三型等の傷害を負わせたものである。

(証拠の標目)<省略>

(弁護人の主張に対する判断)

弁護人は

(一)  道路交通法第七〇条の安全運転義務を考えると同法第二条の運転者の定義は明らかで、運転者は運転用務に従い運転するものでハンドルを握り自動車の運転操作一切をするものをいい、技能指導員は補助席にいて補助ブレーキしかないので運転はできない

(二)  道路入口に監護者の付添わない幼児が佇立しているときは、道路交通法に徐行の規定がない

右はいずれも道路交通法違反の責任はなく、従つて刑事犯罪上の責任はない

と述べる。

これに対する当裁判所の判断は次に述べるとおりであり、これを要約すれば理由なきことに帰する。

(一)点については

道路交通法第二条第一七号の「運転」とは、技能指導員が仮免許を受けた者と指導者席に同乗して教習用の普通乗用自動車を路上教習のため運転する場合も含むものと解するのが相当である。換言すれば、技能指導員は、自己が運行管理すべき自動車の運転を仮免許を受けた者に委ねつつ指導者席に同乗する自動車運転者と解する。

(二)点については

自動車を運転することは、社会的に有益不可欠であるため所謂「許された危険」として法の許容することであるが、それがため、これに従事する者は事故の結果が重大であるから、結果の発生についての注意義務を科しているのである。その注意義務は具体的状況によつて種々異なつてくるが、思慮分別のない幼児については法令規則に従うことは勿論であるが特別の規定のない場合でも社会相当な条理上、社会通念上要求される注意義務には従わなければならない。

(三)  従つて、技能指導者は、その運転によつて道路の状況等に応じ仮免許者に対し随時適切な指示等をなし、これによつて生ずべき一切の危険発生を未然に防止するため必要にして可能な注意を尽すべき義務がある。

(法令の適用)

被告人の判示所為は、刑法第六条により昭和四三年五月二一日法律第六一号により改正前の刑法第二一一条前段、罰金等臨時措置法第三条第一項第一号に該当するが、所定刑中罰金刑を選択し、その所定金額の範囲内で被告人を罰金二〇、〇〇〇円に処し、右の罰金を完納することができないときは、刑法第一八条により金五〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとする。

訴訟費用については、刑事訴訟法第一八一条第一項本文を適用して全部被告人に負担させることとする。

(裁判官 内藤寿太郎)

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